カナダ・エドモントンの日本語コミュニティスクール             

20036                       大木 早苗

 

外国には日本語を学ぶことができる教育機関がいろいろあり、多くの外国人が種々な目的を持って日本語を勉強しています。すぐに思いつくのは、大学で日本語を専攻する、教養やビジネスのため私立の語学校や公的機関が提供している日本語のコースに参加する、小・中・高校など学校の外国語教科の一つとしてとる、などでしょうか。 これらのコースではたいてい教師はその国の言語で指導をし、テキストは外国語として日本語を学ぶように、その国の言葉で書かれています。日本人が中学校で日本人の教師に日本語で書かれた教科書を使って英語を習う状況と同じです。

 

ところが世界中でも数は少ないのですが、日本語で日本人の教師が日本で使われている国語の教科書を使って、日本語を教えている学校があります。エドモントンにあるMetro Edmonton Japanese Community School もそのような学校の一つです。1977年に創立されてから、私もずっと教えたり運営に携わったりしてきましたので、どんな学校なのかご紹介いたします。

 

学校を創立したのは、自分達の子供に日本語を教えたいと願った父母です。移住したり外国での滞在が長くなったりした日本人の家庭では、ある程度努力をすれば日常の家庭生活ができるぐらいの日本語を子供に教え、家庭内で日本語を使うことが出来ます。ところが、日本語の本を読んで新しい知識を得たり、日本語で文を書いたり、意見を言い合ったり出きる程度の日本語ができるようになるには、学校のような組織の中でよく計画された教育を受けないとなかなか難しいのです。

 

私達の学校は、子供が日本語の本を読んだり文を書いたりできるようになることを目的に、父母がちからを出し合って組織をつくり、カナダの公立小学校の校舎を借り、自分達で教師になったり教師を探したり、何をどのように教えたらよいのか話し合い、独自の指導目標を決めて、運営してきました。そして26年前からのその伝統をずっと続けて今日にいたっています。日本にいると、素人が自分の子供のために学校を作って、何をしたらよいのか真剣に考えながら、その運営をしていくという経験は余り出来ないのではないかと思いますが、子供の教育のプログラムを親が考えていくのってすばらしいです。

 

学校が始まってすぐに、日本から補習授業校としても認められ、6ヶ月とか二年とか短い期間カナダに滞在する家庭の子供もいっしょに勉強するようになりました。また、お母さんだけかお父さんだけが日本人という国際結婚家庭の子供も大勢います。近年数が増えたグループは、日本に住んでいたことがあるカナダ人の家庭や外国人の家庭の子供です。今学校には日本人のほかにカナダ人、ロシア人、ポーランド人、中国人などの家庭の生徒がいます。この生徒は日本の小学校に行っていたことがあるので、カナダで育った日本人の子供より日本語がしっかりしている生徒がいます。もう一つのグループは、大人になってから日本へ行って日本語ができるようになったので、日本語の勉強を続けたいという大人の生徒です。大人でも何年生の国語の教科書が使えるかしらべてから一番適したクラスで勉強しています。

 

例に小学3年の学級をご紹介します。担任の先生は以前子供が私達の学校に来ていた方です。生徒は8人です。中国人の家庭の生徒一人、お父さんが日系3世でお母さんが日本から来た家庭の生徒一人、お父さんがカナダ人でお母さんが日本から来た家庭の生徒一人(このカナダ人のお父さんは日本語がよく出来ます)、日本から去年来て二年滞在予定の日本人の家庭の生徒2人、日系3世の若い大人、日本の高校へ短期留学したことがあるカナダ人の高校生、両親がロシア人で日本の小学1年生を済ませてカナダへ移住した生徒、の合計8人です。みんなで小学3年生の国語の教科書を中心に勉強しています。

 

614日には運動会があります。今年は運動会係のお父さん、お母さんが張り切って日本の学校の運動会をしようと相談しているようです。今まではピクニックのような会だったのです。相談していて分かったのですが、同じ日本といっても北海道風の運動会とか大阪風の運動会とかがあるのですね。季節も北海道では6月に運動会があるそうです。

 

学校は毎週金曜日の夕方545分から845分までの3時間です。学級は4歳児の年中組から中学3年まであります。生徒が2人しかいない5年生から、8人の年長組みと3年生まで学級内の生徒数はいろいろです。このほかに2Ñ3才の幼児の保護者が自主運営しているプレイグループも6時から7時まで一緒にしています。

 

エドモントンでは、どうしてこんなにいろいろな背景の人たちが一つの学校で勉強しているのだろうと思われるでしょう。その理由は、エドモントン地区の人口が100万人の中都市である、日本人・日系人は1000人以下、日本から来ている企業は少ない、日本人とカナダ人の国際結婚による家庭が増えている、カナダでは多くの文化を継承することを奨励し学校でもいろいろな言葉を選択できるようになっている、などから、日本語を学びたい人がいます。ところが、大学生は大学で授業を選択できることと大人は成人教育の日本語入門クラスがとれる以外は、それぞれのグループの人数が少なくて学校にはならないのです。それで、私達の学校の目標に同意でき、年中組から中学三年までの学級で勉強できる生徒はみんなこの学校に入れるようになっています。

 

カナダでの滞在が短い生徒は、学校に来ることによって国語の勉強ができることはもちろんですが、日本語の環境に入れることで、英語の環境でのフラストレーションを解消できる場合が多く見られます。また、カナダ生まれの生徒でも中学三年までの課程を終わった生徒がたくさんいます。途中で止めることにした生徒でも、日本語を勉強した経験はよい効果をもたらしているようです。

 

生徒数はプレイグループを入れても65人の小さな学校です。これからもエドモントンで日本語の教育を続けていく機関として存続させていきたいと望んでいます。

 

おわり